一田和樹さんは以前から知っていた。
私自身、高校から情報科学を学び、大学ではネットワークセキュリティを専攻して、卒業後はIT企業に就職した。
一田さんの各小節は情報セキュリティ(サイバー犯罪)を題材にしているのが特徴だ。学生時代からセキュリティを学んでいる私にとっては「待ってました」と言わんばかりの作家さんである。
今回もタイトルからそれ系のストーリーという事がうかがえた。なので、ろくに中を見ずに購入した。
読んでみて
予想通り、サイバー空間で事件が行われそれによってもたらされるリアル世界の出来事が中心として、物語が進んでゆく。
さらにはSNSなど世間になじみがあるものも題材として登場し、私のようにセキュリティに明るくない一般読者が読んでいても苦ではないようになっている。
一田さんの小説で面白いのは「リアルでもありうる」ことが中心に話が進んでいくことだ。
例えば、今回の舞台の中心は古里原発という韓国にある原子力発電所は実際に存在する。しかもその立地は日本に一番近くにあり、そこで原発事故が起これば日本も放射能の被害を被ることになる。
韓国の原発は6基あり、そのうち半分は日本に近いところにある。
こういったようにリアルでもありうるできごとが中心に物語が進んでゆく。
最後に著者も書いているが本当に現実世界で起こっても不思議はない「ありゆること」が中心に据えられているフィクションである。
リアルに感じられるからこそ、感情が動く幅がおおきくなり、ページをめくるたびに手汗をかいてしまうのだろう。
エピローグまで楽しい
まさかの展開すぎて、カフェから出なければいけない時間なのに、そのままストーリーの中に浸かってしまった。
続編が楽しみになってしまう内容だけに、本を閉じたとき「しまった!」と後悔した。またおこずかいから小説代が消えてしまうと。
印象的なことば
原発で働く職員がいつも通りバスに乗り職場に向かっていた。原発まであとすこしというところで警察に拘束されてしまう。韓国原発が何者かにハッキングされ事故が起きるおそれがあるからだ。
丘にある広場まで連れてこられたその職員にことば
命と金を交換する日々が終わるのは死ぬときだけ
原発サイバートラップより
一小説のいち言葉、さらには内容とあまり関係ないと思われる言葉だが、いまの生活に当てはめると他人事ではないので心にささった。
この言葉を読んでからすこしばかり本を閉じ、考えてしまった。
タイトル | コンビニ人間 |
著者 | 村田 紗耶香 |
出版 | 文春文庫 |
出版日 | 2018/9/4 |
評価 |
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